遺留分にまつわる民法改正
1980年以来、約40年ぶりの相続法(民法)の改正が成立しました。前号では改正で新設された配偶者に関する権利を取り上げましたが、今回は遺留分に関する改正内容を解説します。
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遺留分制度とは?
遺留分制度とは、遺言や生前贈与によって、被相続人の財産が特定の者だけに偏って贈られた場合に、それ以外の相続人に対し、最低限の取り分(遺留分)を請求すること(遺留分減殺請求)を認める制度です。
遺留分減殺請求ができる人(遺留分権利者)は、法定相続人のうち、被相続人の配偶者、子等の直系卑属、父母等の直系尊属に限られています。被相続人の兄弟姉妹はこれに含まれません。
遺留分として請求できる割合は法律で定められており、この範囲においては、被相続人が他の者に贈与や遺贈を行ったとしても、遺留分権利者は、取戻しの請求や引渡しの拒否等によって、一定の財産を留保することができます。
平成30(2018)年7月に成立・公布された改正民法により、この遺留分制度が大きく変わります。特に重要な改正は、「遺留分の金銭債権化」と「遺留分の算定方法の見直し」です。
なお、平成30(2018)年11月21日の官報により、施行日は平成31(2019)年7月1日となりました。
遺留分の金銭債権化
遺留分減殺請求に際し、これまでは遺留分権利者に金銭で弁償を求める選択肢は認められておらず、現物での返還しか請求できませんでした。返還を金銭で行うか現物で行うかを選択できるのは、相手方のみです。
そのため、遺留分を侵害する贈与財産が不動産や自社株式、事業用財産である場合においても、遺留分権利者は、現物であるそれらの財産の一部(遺留分として請求できる持分)を請求することしかできません。このことで不動産や株式等の共有が発生し、時に不要なトラブルを招いてしまうケースもありました。
改正法の施行後は、遺留分権利者に遺留分侵害額相当の金銭支払いを請求する権利が認められるようになります。円滑な相続、事業承継にとっては朗報となる改正です。
遺留分の算定方法の見直し
特別受益とは、被相続人から特別に受けた利益のことをいいます。具体的には、遺贈や生前贈与がこれに当たります。
相続人の中に特別受益を受けた者がいる場合、残った相続財産のみで相続分を計算すると不公平な配分となってしまいます。そこでこれを是正するために、特別受益を考慮して相続の計算を行うことが民法に規定されてい ます。
改正前の民法には、この特別受益に該当する贈与には時間的な制限が設けられていません。何十年も前に贈与された財産も、遺留分額の算定の際には、相続時の時価で算入されます。
つまり、前ページの事例のように20年前に親から取得した自社株式が大きく株価を伸ばしていた場合、その成長が後継者の努力によるものであったとしても、遺留分額が高額で算入され、その相続人に不利に作用することとなります。
今回の改正では、この点も大きく改善されました。改正後は、相続開始前10年間の贈与に限り原則算入との制限を設け、それ以前に行われた財産は算入されないこととなります。事例における株式は20年前に贈与されているため、遺留分額の計算には算入されず、後継者に不利に働くことはなくなります。
上記の他にも「相続人以外の者への貢献を考慮した特別寄与料の請求」等の改正項目があります。今後の相続に大きく影響する改正です。今一度、改正内容をご確認ください。